お昼すぎにのれんをくぐると、すぐに「当店の水はπウォーター]です」と主張しているサーバーが目に入った。あまりにも堂々と書かれた文字からみなぎるエネルギーは、まさしく軌跡の水からのお恵みか。ワクワクしながら、はじめて出会った幻の水を口に含むと・・・水道水よりはましだけれど、活性炭より効果がうすいような印象を受けた。注入されたエネルギーは、糖類ではなさそうだし、いったいどういうカタチで、体内に入ったのだろうか?考えるだけでかなり楽しい。ググッテみると、予想をはるかに越える効果の数々に、心拍数はあがる。絶対、ネーミング勝ちだと思うんですよね。「π」の半濁音が効果の源泉だよ。笑。「αウォーター」とか「β水」でもなんか聞きそうなニュアンスをふくんでいる。ギリシア文字ってかっこいいんだね!?
 せっかく、「かの」有名な水と頂戴したので、『疑似科学入門』(池内 了 岩波新書)についてふれてみよう。さっそく「πウォーター」を探してみると

πウォーターは何がπなのかさっぱりわからない (50ページ)

笑。本書の真骨頂は、科学的な答えをだせない複雑な事象を第三種疑似科学と分類し、どう対応するべきかと思考したところにある。自然界を支配する神のふるダイスを予測できないから、とりあえず様子をみようと、「予防原則」を前提に考えるべきだとは書かれている。
 地球は温暖化するかもしれないから、とりあえずCO2排出を抑制しようとか、資源は有限だから今のうちにリサイクルしようというのが、予防原則に拠った考え方だ。とはいえ、批判に答えることなく自己目的化し盲目的に突き進むと、疑似科学的になりうる。その危険性を自覚しているだけに「予防原則」のはぎれも悪い。
 超能力や占いやオカルトなどの精神的超越系を第一種疑似科学、科学的な言葉をまぶして、信用させるものを第二種疑似科学と分類し(πウォーターはここに含まれる)、これらを「心のゆらぎ」につけこむテクニックだと明確に批判している様子は、軽快だ。
 入門者にはまず、このあたりをよく読んでもらいたい。そもそも、なぜ科学的なものや、科学を超えたものを信頼するのか。普段なら毛嫌いする、わけのわからない科学的もの言いを思い浮かべつつ、読むと効果は大きい(だろう)。「予防原則」の先へ進むための指針もここに書かれている。