サクラ

 桜が最も魅力的なのはこの時期ではないか。そう思えたのは雨のあがったばかりの午前5時だった。
 足もとに散らばるはなびら。視野はブルーがかっているはずなのに、花としての主張をやめようとしない。
 視線をすこし上げると、ソメイヨシノには黄緑の葉が繁茂している。いっきに芽吹いた若い葉は初夏の到来をおもわせる。
 手を伸ばしても届かないところに咲いているその花は、青く暗い背景にも我関せずと鮮やかな葉に引き立てられ凛としている。儚さとともに強さを身につけたひとのよう。
 ホワイトバランスがとれるくらいの空になると、コントラストが急激に弱くなり葉の色がぼやけてくる。サクラの花も曇り空と同じような色合いになる。それでも、残像は心を魅了しつづけた。瞬く命には出自など関係ない。
 僕の右目はブルーがかっている。正確にいうと右眼でみると風景がすこし青く見える。カメラのファインダーを試しに交互にのぞいた時に気づいたことだ。これなら、サクラをみるにはすこしは都合がいいか。クローンの花びらはまだ散らない。