二枚舌か?

 先週は目を引く自然科学系のニュースが多かっためずらしい4月の第四週。なかでも、iPS細胞を遺伝子を導入することなしに誘導した論文が発表されたことを、たまたま見ていたTVで草磲ニュースの後に出てきて知った。んーファンタスティックなかんじ。あるマスメディアでは「遺伝子を使わず」と報道していましたが、厳密には遺伝子を細胞に導入しないだけで、遺伝子はターゲットのタンパク質をつくるために利用されている。山中教授たちがiPS細胞がはじめて報告してから、3年もたってないのにその発展速度に、ただただ感心するばかり。特にヒトiPS細胞が発表されてからの加速度は、ひたすら増しているように思える。ここ数ヶ月は毎月新たな、しかも刺激的報告が続いている。
 当然、科学雑誌「Nature」も「Cell」もそのあたりは心得ていて、山中教授のレビューを掲載したり、特集の一部にインタビュー記事を盛り込んだりしている。最近はもっぱら、細胞のゲノムに導入遺伝子を残さないようするテクニカルな研究報告が多い。では、そこを乗り越えたらOKかというえばそんなことはなくて、遺伝子を組み込まないタイプのiPS細胞が樹立されたとしても腫瘍化の問題からは逃れられない。というのも、まだまだiPS細胞の性質がよくつかめていないからなのだ。上に挙げた「Nature」の論文で Scripps Research InstituteのSheng Ding博士はガン抑制に関わる遺伝子ネットワークがiPSだと抑制されていることや(抑制の抑制でつまり、ガン化を促すことになる)、エピジェネシス(遺伝子発現を調節するシステムのひとつ)も乱れていることを指摘して隠れた問題があると述べていますし、University of Wisconsin–MadisonのJames A. Thomson博士も化学物質を用いようが遺伝子を使おうが問題なのは、その結果ゲノムに生じている細部の変化だと言っています。このあたりは今後も注意が必要で、記事によれば山中教授は3,4年でドラッグスクリーニングにiPS細胞を使えるだろうと考えていて、10年で臨床試験までいけばと期待しているようだ。
 んで、もうひとつ。ヒトクローン胚解禁を答申 総合科学技術会議asahi.com
 米国では少し前にオバマの指示のもとES細胞を研究に利用するために新たなガイドラインをNIHが作成中で、最近その概要が発表された。もともとは、ブッシュが既に樹立されているES細胞を利用した研究にしか国の研究費をわけませんと決めたのだが(民間の研究はフリー)、オバマは選挙公約で倫理的な行いと厳格な監視の下でこれを撤廃すると述べていた。新たなガイドラインでは、日本風にいうところの「余剰胚」でES細胞を樹立することをゆるされたが、研究用に特定の遺伝子型をもった精子卵子を受精させたり、クローン胚をつくることは認められなかった。また、売買もみとめられなかった。これの結果は、選挙中のいわゆるマニフェストからはぶれていない。日本は一歩先に進むことになるのか?そのあたりの考察などはまたの機会に。げげっこんどはブタインフルエンザだってさ。メキシコで亡くなっているのは免疫の弱いお年寄りや子どもならば「ありうる」こと。米国で亡くなった報告がないのは、隠れているせいか、栄養状態が良いせいか???そのあたりもヒントになりそうなのだが。