ノーベル賞

  ノーベル賞の発表も終わり、いよいよ食欲の秋?でしょうか。昨年は「四人」のニホンジンが受賞してフィーバーしていた秋の夜長でしたが今年は該当者はなし。少し、寂しい結果となりました。引用論文件数から受賞者を予想するトムソン・ロイターは生理学賞と経済学賞の合計4名を的中させましたが、日本から唯一名前が挙がっていたfMRI小川誠二氏の受賞はなりませんでした。トムソンのHPによると2002年から発表された117名のうち15名がノーベル賞を獲得しています。ただし、予想された年と実際に受賞した年とのマッチングを厳密に行っているわけではありません。たとえば今年、経済学賞を獲得したOliver E. Williamson氏は2006年に有力候補者としてノミネートされています。候補者のうち日本人は11名です。残念ながら西塚泰美氏、戸塚洋二氏は亡くなられていますのでノーベル賞の対象からは外れてしまい、現状では9名ということになるでしょう。
 一方、今年の9月に米国・ラスカー賞を獲得した京都大学山中伸弥教授の受賞も期待されています。ラスカー賞の受賞者はノーベル賞を獲得する割合が高いことで知られています。iPS細胞の樹立によって、制限された細胞の能力を解放させる4つの遺伝子を発見した研究結果をはじめて読んだときに、僕も目を見開いて驚いたのをよく覚えています。現在、世界からもっとも注目が浴びている研究のひとつであることに間違いはないでしょうし、日本の報道からもその期待感がありありと伝わってきます。ただし、ノーベル賞の獲得となるとどうでしょう。少し保留したい気がします。その理由はただひとつ。因子の数が一つになる可能性があるということです。
 たった4遺伝子で分化というくびきから細胞を解き放ち、細胞の時計を逆回りさせた衝撃的な論文が2006年に発表されたとき、それはマウスの細胞を利用したものでした。ヒトの細胞で成功するまでに約一年、さらに2ヶ月後には作製頻度こそ低下したとはいえ3遺伝子でiPS細胞を樹立に成功。最近の研究からはOCT3/4という遺伝子ひとつでiPS細胞に変えられることがわかってきました。ただし、これは制限の弱い神経幹細胞を利用してiPS細胞を樹立したため、どれほど普遍性を持つのか、まだわかっていません。いいかえればこの遺伝子ひとつでどの細胞でもiPS細胞に変えられるかどうかで、山中教授の手にノーベル賞が渡るのか否かが決まるといっても過言ではないでしょう。もし、OCT3/4 遺伝子だけで可能ならば・・・。
 Oct3/4遺伝子は発見からそろそろ20年、重要な遺伝子として非常に研究の進んでいるために単体でiPS細胞を樹立するのは難しいと判断するのか当然だと思います……しかし、数年前まではiPS細胞すら存在していなかったのです。多能性をもつES細胞も発見から、ノーベル賞までに26年の歳月が経過しています。近年ではRNAiによる新たな遺伝子制御機構の発見から、8年で受賞に至った例が最短ではないでしょうか。
 少し長くなりました。そろそろ結論です。たとえノーベル財団から山中教授にメダルを授与されなくとも研究成果が色あせるものでもありません。強烈に輝き続けることでしょう。また、トムソン・ロイターの候補者にも多くの日本人がノミネートされています。つまり優秀な研究者がたくさん日本にもいるわけです。むしろ、この時代で少しでも研究結果を共有できたことを幸運に思うべきではないでしょうか。そして、日本人に限らず世界での行われている研究も例外ではないです。もちろん、ノーベル賞は科学の一面でしかありません。それでも、今日はこのあたりで終わりにしようとおもいます。