わかっていないから、(都合よく)様々に解釈されるんだよ

 『脳科学の真実』(坂井克之 河出ブックス)は一般の人にとって現在の「脳科学」と科学リテラシーとを共に学べる最良の書。研究結果とその解釈の間に横たわるカンチガイを、哲学的なアプローチをとらずに説明するので非常にわかりやすい。
 内に秘められた脳内を流れる血液や酸素量の変化は、計測されて体を飛び出し、いつのまにかTVや書籍で、ゲームで僕らの脳を「活性化」している。そんな時代だ。気づけば活性化=良いことと無意識的?に思っていたのですけど、何か問題でもありますか?本書は脳科学をとりまく問題に、まるで以下のように答えているようだ。
 はい。マジックワード「活性化」はどんな文脈でも(たとえ正反対でも)人々を納得させ、都合のよい意思決定を誘導させる効果を持っています。脳科学者に、漠然とした心を解説する術を授けたという点で、非常にやっかいな言葉なのです。脳研究者たちも自分の研究をアピールし研究費を獲得するために使います。現在、その影響は教育・医療・商業分野と多岐にわたっています。実は脳は活性化されなくてはてはいけないのか?という根本的問題だって残っています。と告白がづつく。
 「脳科学の真実」というタイトルは、伊達じゃない。そういえば、てんかんは脳全体が「活性化」している状態だったはずだ。
 先日、TV番組で天才を育てた親から学ぶ、子供の早期教育方法を特集していた。出演していたのは脳科学者・茂木健一郎氏。様々な教育法を「脳科学的な活性化」を利用して有効性を解説する役割を与えられたのだろうが、福沢諭吉の『福翁自伝』を持ち出し、「福沢諭吉は14歳から読み書きをおぼえ、慶応大学をつくるまでになった」と企画そのものをぶちこわすような発言に笑う。最近の脳科学者はメディアをしたたかに使うようになったのかもしれない。

脳科学の真実--脳研究者は何を考えているか (河出ブックス)

脳科学の真実--脳研究者は何を考えているか (河出ブックス)