精度の問題か

 「足利事件」で無期懲役が確定していた菅家利和(すがやとしかず)さんを東京高検が釈放しました。当然だし、おせーよ。詳細は日垣隆さんの『情報系これがニュースだ』(文春文庫)に書かれているので是非読んでみてください(絶版らしいが)。現在、注目されているのは以下の点でしょうか。1.鑑定精度 2.再鑑定 3.取り調べの様子と自白の強要 4.まだ捕まっていない犯人について(周辺では同様の事件が数件起こっている)。
 この事件ではDNA鑑定が決め手になっただけに、再鑑定で人違いが判明したのですから、無罪(といっても地裁では棄却されていたのですが)になるのは当然です。足利事件では当時の鑑定能力には「問題があった」と具体的精度を(当時は約185人に1人の判定確率だったけれど、今は4兆7千億人に1人だそうです)を持ち出して指摘していますが、問題はそれだけではないでしょう。先日のサンプロが特集で取り上げていたなかには、アリバイや犯行時刻などからは犯行が困難だった事件でも、DNA鑑定は一致していたために逮捕後に有罪判決を受け、現在は服役中の方がいると報道していました。また、先に挙げた日垣氏のルポによると当初の鑑定では、発見できた付着していた精子は頭部3個のみ!!で、その後の鑑定では、異なった部分から一万五百から一万二千個が発見された。なぜか増えたのだ!!。鑑定が未熟だった?さらに、再度やり直された鑑定では菅谷さん(18−29)と犯人のDNA型(18−24)は異なっていて当然なのだが、それはもともと発表されたDNA型(16−26)が全く異なるのはどう考えたらいいのでしょうか?
 ちなみに『科学警察研究所報告 法科学編』にはじめてDNA鑑定に関連する論文が載ったのはは1991年2月に出版された44巻1号(論文が受理されたのは90年の11月)です。ちなみに菅谷さんの逮捕は92年の12月。タイトルは
「ヒト精液斑からのDNA精製法とDNA型検出法」と「血痕からのDNA精製法とシングルローカスVNTRプローブを用いたDNA型検出法について」。前者の論文では、サラシ布(なんだそりゃ?)とテッシュから精子の回収率を上げるための方法と、経時が及ぼす回収率の変化などを調べています。この論文ではサザンハイブリダイゼーションという方法を利用しているのでが、少なくとも回収されたDNAが1.1μgと1.8μgの場合はDNA型のバンド検出が「困難だと考えられる」と書かれています。菅谷さん疑われた1万個の精子は論文に使われている方法からざっくり逆算すると、25ng(=0.025μg)です。2.1μgで検出可能ですからその1%ほどの量しかありません。
 翌年、92年の『科学警察研究所報告』では「MCT118財のPCR増幅による血痕および体液斑からのDNA型検出法」が発表されています(91年9月に受理)。この論文によれば、新鮮な血痕からでも希釈された血液からでもその検出に約2−5ngが必要だと書かれています。これなら可能そうですが、鑑定に使われた下着は一昼夜のあいだ川底にあったそうです。これが本当ならやっぱりむちゃくちゃですね。再現性も16年も確認されたかったわけですし、これは科学じゃないよ。